アッキーパパと一緒にキャラ弁を作れる日がいつかくるのだろうか。

大滝ナースのしんみりとした話に夕ご飯を食べながら相づちしか打てないでいるアッキーママであった。

オカリナ演奏会

ある日、田畑さんが見慣れない物体を大事そうに抱えているのを前歯一本は見逃さなかった。

「おい、田畑さん、体調どうだい? 俺はここのところいい感じだよ」

やはり前歯一本は誰に対してもなれなれしく、良く言えば人懐こいのだがこれも、また『躁状態』の時があるから要注意であった。

本人の認識もなく、誰かれ話しかけては大滝ナースに注意される事がしばしばあった。常夏ハワイアンズで最初にアッキーママに話しかけてきたのも、やはり前歯一本であった。

大滝ナースは前歯一本の素因を既に分析済みであった。前歯一本はその田畑さんの見慣れない物体をしげしげと見ていた。

手の中に割とすっぽりと安定よく収まり流線形は所々に小さな小さな洞穴があいている。茶色の彩色は程よく使い込まれたぬくもりがそこにはあった。

前歯一本はまたも人懐こい笑顔で無造作に田畑さんに近寄り話しかけた。先ほどから田畑さんはひとことも言葉を発していなかった。

「こんにちは、前歯一本さん。僕はここのところ調子がいいです。睡眠導入剤がよく効いているようでしっかりと睡眠がとれています。やはり薬には頼りたくは無いですが上手にきちんとドクターの診察で睡眠薬を利用して、しっかりと睡眠が取れると翌日調子の良い時が僕は多いです。助かってます」

「そりゃ、なによりだな。睡眠はとても大事だぞ。一晩の徹夜が『躁状態』を悪化させちまうからな。徹夜で勉強なんて俺達には出来ね~もんだな。まあ、そんなにテスト勉強することもなくなっちまったよな。ガハハハッ。それはそうと、なんだい? それは?」

「あっ、これですか、オカリナです」

「オカリナ~? どこかで聞いたことがあるな、へ~、ハーモニカみたいに吹くのかい?」

「まあ、そんなところです」

「おい、ここで何か吹いてくれよ。リクエストは出来るのかい?」

「とんでもないです、今、一曲練習しているところです」

「ほう~、そうかい、じゃ、練習曲を俺の前で誰にも見られない所で披露してくれよ」

「披露ですか、披露ですよね……」

「そうだ、俺をかぼちゃだと思えよ、あれ、じゃがいもだったか? まあ、どっちでもいいよ」

恋して悩んで、⼤⼈と⼦どもの境界線で揺れる⽇々。双極性障害の⺟を持つ少年の⽢く切ない⻘春⼩説。