オカリナ演奏会

前歯一本に畳み込まれるようにしてエレベーターの扉横に、こそっと二人して座った。

あんなに恥ずかしそうにしていた田畑さんはいきなりリップクリームを出してきて唇に潤いを与えていた。前歯一本は声も出さずにみとれていた。

これは儀式なんだろうか、神妙な面持ちで耳を研ぎ澄ましてその時を待った。

すると、田畑さんのオカリナから五つの音が飛び出した。

その五つの音はあちこちに舞い上がっては落ち、落ちてはまた舞い上がった。ト音記号、おたまじゃくしが田畑さんのバーコードの頭を興奮させていた。