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そのころ、ひまりもモヤモヤした気持ちと闘っていた。図書館で見つけた医学辞典に書かれていた内容に思わず衝撃を受けたひまりだったが、アッキーママがどんな病気と闘っているのかやっぱりちゃんと知りたい。辛くても目を背けたくない。そう思い、もう一度図書館に行くことを決意したのだ。
この前の医学辞典が置かれていた棚の前に行くと、ふと一冊の本に目が留まった。それは、医学辞典とはまったく違う明るい装丁の本で、ひまりに早く読んでと叫んでるようにも感じた。それは闘病記なのだろうか。ページをめくると優しい言葉でわかりやすく書いてあるように感じたので、この本を借りることにした。
図書館をあとにしたひまりは、廊下で偶然アッキーを見かけた。
「アッキー」
少し離れた場所にいたが、ひまりは思い切って叫び、アッキーのもとに駆け寄った。
「おお、ひまり、どうしたんだ?」
「あのね……この本、どう思う? 私、借りて帰ろうと思うの」
少しびっくりした表情でしばらくその本を見つめていたアッキーだったが、やがてぽつりと話し始めた。
「実は俺もその本、気になってたんだ。あの後、やっぱり気になってもう一度図書館に行ったんだ。明るい表紙だったから思わず手にとったんだけど、でもやっぱり怖くて、中は見れなかったんだ……。ねえ、ひまり、一緒に読もうよ」
アッキーの、一緒に読もうよ、の言葉の抑揚が何故だか、とても男っぽくひまりは感じた。
大袈裟なのかも知れないが、アッキーママの病気を解ってあげられる同志なのだと心からひまりは嬉しくなった。
二人はもう一度図書館に戻ると、空いていた席に座った。ひまりはさっそく本を手に取るとパラパラ、後ろからパラパラ、また前からパラパラ。アッキーは最初から読みたいタイプだから、ひまりのその読み方が気になったがここは傍観者になろうとした。すると、ひまりは唐突に声を上げた。
「アッキーママ、何か、高価な買い物する?」
「高価な買い物か~、はてな~」
「車とか、家とか、ダイヤモンドとか?」
「そんなのある訳ないじゃん」
「そっか、良かった。衝動的に高価な買い物するのが、双極性障害1型、なんだって。アッキーママは違うね」
「あっ、でも、この間、元気な時にはひとりで近くのデパートで国産のマンゴーを買ってきて、アッキーパパに怒られてたよ。国産のマンゴーはすごい高いらしいんだ」
「えっ、それって高価な買い物になるのかな?」
「車とマンゴーは違うだろ」
「そうだよね~」
ひまりのそうだよね~、の言葉をかみしめていると、そう言われればとアッキーは思い起こしたのだった。
しばらく前に、アッキーママとアッキーパパは激しく口論していた。洗濯機を買い替える契約をアッキーママはひとりで決めてきた。ドラム式洗濯機がどうしても欲しかったのだとアッキーママは譲らない。まだ使えるじゃないかと、アッキーパパに諭されてキャンセルに行っていたらしい。元気で明るくなった時に、一方的で攻撃的にアッキーパパと話をしていることはアッキーはたまに耳にする事があったが、少しするとアッキーパパと穏やかに話をしていた。
マンゴーにドラム式洗濯機、アッキーには、ちんぷんかんぷんであった。