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家庭教師
「……それで、最近は学校、行ってるの?」
「ママがあんな状態じゃ、行けないよ。まあ、そんなの言いわけかな。なんかウザイんだよね、何やっても。学校なんか、めっちゃキモイ! 修学旅行とかあるんだけど、ぜってい行かねえ」
「大丈夫なの?」
「何が?」
「修学旅行に行かなくても、大丈夫なの?」
「行きたくないのに無理に行く必要ある?」
「まあ、学校行事だからね。仕方ないでしょ。世の中、すべてそうじゃないの? 自分のやりたいことだけやって、生きて行ければ最高だけど」
彩さんは、不満そうな顔をした。自分の机の上の男性俳優の写真を見ていた。ただ、僕は彩さんよりも夫人の身体のことが気になっていた。戸外は星空が綺麗なのに、大塚家の家庭事情は、暗い空に包まれていた。
授業が終わってからお茶を出してくれた夫人に僕が、
「あの、体調良くないんですか?」
と言って顔を覗くと、夫人は無理に微笑んで、
「なんか、いろいろあって疲れたんでしょう。休養すれば、よくなると思います。心配してくださって、ありがとうございます」
「いいえ。あの、女性の病気のことは良くわかりませんが。一度病院で検査されたらいかがですか? 彩さんも大変心配されてますし、もし大きな病気だったら、お母さんだけでなく、家族も困るでしょうから」
夫人は苦笑いしながら、彩さんの顔を覗いた。
「そうですね。病院はあまり好きではないんですけど。考えてみます」
「すぐにでも診てもらったほうがいいと思います」
僕は心から思ったことを言葉にした。