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エレベータの中に入ると、私たちの後に続いて一組の親子が乗ってきた。

小柄ではあるが、髪の毛をきっちりと1つに束ね、全く隙を見せない、強気な態度が印象的な母親と、まだ、あどけない6、7歳ぐらいの少年。

母親の年齢は、30代半ばぐらいだろうか。少年は、母親に背後からギュッと抱きしめられている。大きな目を上目づかいにキョロキョロとさせながらBたちの様子を観察している。

母親は強張った表情で、エレベータの角に寄った。息子の興味をBたちからそらせようと、話しかけたり、身体を揺すったりしているが、そんな母親の心配をよそに、息子はどんどんBたちに引き込まれていく。

“Yo, what’s up?(オイ、調子はどうだ?)”

少年の視線に気付いたBたちが声をかける。警戒心露わにその様子を窺う母親。この若い男たちになめられてたまるものかと、気を張っている感じが伝わってくる。

母親は息子からその手を決して離そうとはしない。だが、Bたちはそんな母親の態度などお構いなしに、その少年に語りかける。

果たして話すべきなのか、話すべきではないのか、あるいは話したいのか、話したくはないのか。その判断は少年自身に委ねられている。

“Yo, what’s up?”

彼らが再び問いかけるが、少年は何も答えられない。彼らとただ、こうして目を合わせているだけで精一杯のように見える。マイク・タイソン似の彼が、ふざけて少年にファイティング・ポーズをして見せる。少年の目には、闘争心が浮かぶ。

「やるか?」

マイク・タイソン似の彼が拳を顔の前にもう一度構えてみせた。Bたちにからかわれていることに全く気付かず、必死に立ち向かおうとする少年。

しかし、その小さな身体はまだ、母親の腕に守られたままだ。

「やれるならやってみろよ。やっぱり怖いのか?」

Bたちは少年を挑発する。しだいに、母親の表情が柔らかくなってくる。母親は、愛おしそうに息子を見つめながら、強い口調で言った。

「ほら、何やってんの。やり返しなさい」。

母親は息子の背中を軽く押した。男の子は思い切って母親から離れ、1歩、2歩とBたちに近付いて行く。

“What’s up?”