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Thug 4 Life(ワル上等)
暴力性や女性蔑視性に満ちたラップのリリックは、教育上好ましくないという批判も実際に多い。女性を性的な対象として扱うマッチョな世界や、生きるために手段を選ばないアウトローな世界に嫌悪感を示す人がいる一方で、それに共感する人もいるのだ。マッチョな部分がなくなっても、それを果たしてヒップホップと呼ぶのか。荒削りで、デリカシーゼロ、セクハラ上等、ワルであることを、仮に、マッチョな世界では、「男らしさ」と定義するならば、ヒップホップは「男らしさ」の誇示である。
1970年代当時、自信も生きる気力も無くしていた黒人やヒスパニック系の若い男性たちが、怒りや苦しみなど、抑圧されていたさまざまな感情と、内に秘めていたエネルギーをついに爆発させた。彼らのアイデンティティとパワー、自己表現と創造性そのものであるヒップホップによってHoodは再び息づいた。
Thug。
ストリートで野垂れ死ぬのはごめんだ。生き残るためには、ときに手段を選ばない。いかなる手段を用いてでも敵と戦う悪漢であり、Street Soldier(ストリート戦士)でありつづける。それがThugだ。Thugとしてストリートで生きること。実際、武勇伝の如く語られるほど生易しい世界ではない。
一旦、足を踏み入れるとなかなかその悪循環から抜け出せない。
ラッパーとしてたとえ成功したとしても、敵がいなくなるわけではない。過去に何かをやらかしたツケは必ず巡り巡って返ってくる。成功を妬み、足を引っ張ろうとする人間もいる。
いつどこで何が起こるかわからない。そんなことを考えながら、万が一のときに備えて、ガンを胸に忍ばせておくこともあるだろう。実際、殺人やドラッグ絡みの問題で、あっけなくその命を絶たれてしまうラッパーも多いのだ。また一旦、自分の中に染み付いたThug Mentality(サグ・メンタリティ)、あるいはGangsta Mentality(ギャングスタ・メンタリティ)は、簡単に身体から抜けきるものではないだろう。
Bは言う。「今日起きることが、明日起きるかもしれない。もしかしたら7年後かも。人生は一つのサークルで、その円をグルグル回りながらオレたちは、生きてんだ。何かすれば、必ず自分のところに戻ってくる。“Goes around, Comes around(因果応報)”だぜ。」
誰かが傷付けば、また誰かが傷付く。一つの命が失われれば、またもう一つの命が失われる。Bは語気を強めて言った。
“Thug for life, ni**a!(ワル上等だぜ!)”
BのThug lifeも、Gangsta lifeも、所詮この一つの世界の中にある。世界が憎しみでいっぱいになれば、自分の人生も憎しみでいっぱいになる。「やられたらやり返す」。ニューヨークのストリートで起きていることは、世界全体でも起きている。
世界各地で、争いが絶えない。強引に自分の価値観を押し付けようとしたり、敵を排除しようとしたり。自分の思うままにやりたい放題。世界が一つのサークルの上をグルグル回っているように思える。“Goes around, Comes around”私はBの言葉を思った。