「へぇぇ、そうだったんだ…」
みんな、ちょっとおどろきました。
「ほとんどのクモは、人間をかんだり、さしたりしないんだ。それなのにクモは、人間にきらわれてばかりだ。かわいそうだと思わないか?」
おじさんのことばに、少年たちは、いっせいにうなずきました。
「わかったよ」
「もう、クモをいじめない」
「おれも」
「ぜったい、ころしたりしないよ」
その夜、少年たちのゆめの中に、昼間のクモがあらわれました。
「みなさん、こんな小さなわたしの命をたすけてくれて、ありがとうございました」
みんなのあたまの中に、クモの声が伝わってきました。
「わたしは、『蜘蛛(くも)の糸』というお話に出てくる、おしゃかさまにつかえるクモの子そんです」
クモは、王かんのようにならぶ八つの目で、じっとこちらを見ていました。
つぎの日、少年たちは、夕べのゆめの話で大さわぎになりました。
「おなじゆめを見るなんて…」
「うそみたい! ふしぎ!」
レオとユキチが、おたがいのほっぺたを、つまみ合いました。
「おしゃかさまにつかえる、だって?」
ヤマトは、目を丸くしています。
「おれ、知ってるよ。『蜘蛛の糸』の話、読んだことあるもん」
見かけによらず、むかし話やおとぎ話が大すきなムッチーが、みんなをとしょかんにさそいました。
そこで、クモのことを、もっとしらべてみることになりました。
「蜘蛛って、こんなかん字を書くんだ」
「虫へんに、知る? おじさんの言ってたとおり、クモはもの知りなのかもしれないね」
「むかしは『ちじゅ』って、呼ばれてたみたい」
「じゃあ、あのクモ、『ちじゅ』って名まえにしよう!」
がっこうが終わると、少年たちは、まよわず野原にむかいました。
「いたいた! 今日からおまえを、ちじゅって呼ぶからな」
レオが、いばったちょうしで、言いました。
ちじゅはちょうど、うす茶色のドクガに、糸をまきつけているところでした。
「うわっ! 気もちわるくて、かっこいい!」
「どっちだよ!」
ムッチーとユキチのやりとりに、ヤマトがふき出しました。