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家庭教師
「なんかウチ、生まれてこなければよかったな。生きていてもつまんないし。何の意味もないし。学校もつまんないし。この家にもいたくないし。ウチどうしたらいいのかな? どうせみんな死ねばそれで終わりじゃん。それだったら、早く死んだって同じじゃないの?」
彩さんは、いつしか自分の思いを憚りなく喋り始めた。なぜそんなことを言いだしたのか、僕にはわからない。僕のことを信頼し始めたのか。それとも緊張がとけてそんな気分になったのか。僕にはわからない。彼女は予想外に饒舌になった。
そんな彼女の様子を見て、これで自分も何とか家庭教師をやっていけるのかなと、勝手に思っていた。彼女の悩みとは無関係に、僕は変な安心感を覚え始めていた。すると僕の気持ちを見透かしたように彩さんは僕の慢心に釘を差してきた。
「あのさ、自慢じゃないけど、ウチの家庭教師って長続きしないよ。みんな嫌になって辞めていくか、ウチから断るか。とにかく長く続いた奴はいないんだ。あんたは、どうなるかわかんないけど……」
彼女の言葉で僕の心はふりだしに戻った。何て厄介な生徒だ。僕も半ば諦めかけていた。この家庭教師はどうなってもいいやと思い始めた。僕は、少し自暴自棄になりかけていた。
僕の曇りかけた心には無頓着に、彼女は喋り続ける。
「ウチみたいな生徒、面倒でしょ!」
「ううん、別に」
「そっか。あんた、家庭教師初めてだもんね。それじゃ比較する奴もいないか」
こんな会話をしているうちに時間がきたらしく、部屋の外から夫人の声がした。
「そろそろ、お時間ですけど……」
「はーい、すいません」