アッキーママはレストラン・菜のシステムが解らず、大滝ナースを探そうとしていたら、前歯一本がまたしてもニタニタと前歯一本を見せながら近づいてきて、おもむろに、

「おい、こっちだ、ついておいでよ」

これまた馴れ馴れしく言うのだったがアッキーママは仕方なく前歯一本の斜め後ろに付いて歩いていった。

「ここのワゴンカートの中からあんたのネームプレートを探しな。間違っても他の人のご飯を取ったりするなよ。糖尿病食や年寄りの刻み食、はたまたアレルギー食なんかあるからな。ちなみに俺は蕎麦アレルギーなんだが、心配することなんかないよ、蕎麦なんてここのレストラン・菜のメニューにはないんだよ」

そう言うとまた前歯一本は厚い唇を大きく開いて、がはは、と笑ったのだった。その下品なダミ声の笑いに周りの人たちは遠巻きに前歯一本とアッキーママを見た。

アッキーママは前歯一本と仲良しだと、間違っても勘違いされては困ると思うが、何となく困っている時に登場してくれるのである。そこのところは有り難いと心の中でありがとうを言った。

アッキーママは自分のネームプレートを二度ほど確認をすると、そ~っと静かにお昼ご飯を取り出した。さあて~どこで食べるのだろう? 席が決まっているのであろうか? おたおたしているところにまたまた、前歯一本がやってきた。

「こっち、こっち、こっちだよ、あんたの席をリザーブしといたからな」

アッキーママは前歯一本の口から、『リザーブ』の単語が発せられ、何だか不釣り合いで可笑しくなって小さな声だがふふっと、笑みがこぼれ落ちた。

アッキーママと書いたトレーの上には、大盛りの白いご飯、小さく切ってあるお豆腐とわかめのお味噌汁。お味噌汁の具は申し訳なさそうに遠慮しているのか、汁の下に隠れている様だった。

そしてから揚げ。これはレストラン・菜で揚げているのか、はたまた冷凍か、考え始めたが考えるだけ無駄なことだと思ったアッキーママであった。調理をせずに食べれるのだ、食器は洗わなくていいのだ。感謝、感謝と思わなくては。

そして、きゅうりの漬物。これでおしまいである。なんて表現したらいいのか、サラダも欲しい、果物も食べたい、欲を言えばアロエヨーグルトも食べたい。これはわがままなのだろうか? 

ふと、アッキーやひまりはどうしているだろうか、今、お昼は何を食べているだろうかと、ざわざわと心が騒いだ。無性にひまりに会いたくなった。アッキーに会いたくなった。たまらなく会いたくなった。


 

恋して悩んで、⼤⼈と⼦どもの境界線で揺れる⽇々。双極性障害の⺟を持つ少年の⽢く切ない⻘春⼩説。