七〇七号室
アッキーママはただただ首と頭を振り回して、その高い天上のブースを見上げた。やはりここは常夏ハワイアンズ地下七階であった。
地下七階の建物なんて有るのだとピュアに感じていたところへ、『ずずずっ』と近寄ってくる男がいた。それはもう還暦ちょっとまえか、それよりもうとっくに過ぎているか、年齢判断表などこの世にある訳ないのだが近寄って来た男は『にだっ~』と笑った。
アッキーママは、え~、やだっ~とびっくりしてしまった。
前歯が一本しかないのである。アッキーママにとってあまりにもセンセーショナルであった。驚いたアッキーママに至近距離六〇センチまで近寄ってくると、「初めまして。俺、前歯一本だよ。どこから来たんだい? C-1からかい? 後でここら辺を案内するからな。これから大滝ナースを探すといいよ。大滝ナースはここではトップレディだからな。何でも聞くといいよ。部屋の場所を教えてくれるよ」
一方的に喋り、そして前歯一本は前歯一本を見せながらも、屈託のない親父の笑顔がそこにはあった。そして踵を返すとまた皆の中へ紛れて行ってしまったのだった。
辺りの空気圧を重苦しく感じながらアッキーママは、ベッドとスーツケースを傍らに置き大滝ナースを待っていた。これ以上ここに居たら前歯一本みたいな変な人がまた、近寄って来そうである。早く七〇七号室でホッとして寛ぎたい気分であった。
予約殺到している七〇七号室とはどんなところだろう。不安にさせたり喜ばせたり興奮させたり大滝ナースは本当に意地悪おばさんである。
まったく厄介だとアッキーママは考えていたら、やっと大滝ナースが息を少しだけ荒くし、小走りにかけながら再びやって来た。小走りになると大滝ナースのボインがわさわさと揺れるのをアッキーママは可笑しくて口をつぐんで小さく笑った。