伊藤は少し自慢気に、
「研究段階ですが、すでにこのニューロンコンピューターは完成の目途が立っています。あとは資金があれば完成するのですが......」
本多は、脳神経外科医として長年脳の仕組みを研究してきたが、AIの研究者より生物学的記憶方式について突然言われ、そんなこと本当にできるのかとにわかには信じがたい驚きを得た。
確かに何百年も前に発見された電気とモーターにより現在の世界が作られてきているが、生物体は何億年もかけて筋肉を作り脳を発達させ記憶力や判断力、知恵を付けてきた。自然界の動植物は人間が頭で考える以上の能力を身に付けている。たかだか数百年研究しただけで人間の能力が自然界の原理に勝てる訳がない、むしろ自然界の原理を研究して機械に近づける方が有効な成果を収める近道であると思った。
伊藤の研究はまさに自然の原則を究極まで掘り下げ、無機物でその動きを再現することであった。