2.学問への憧れ
学生時代にきちんと勉強しなかった、というのが今でも悔やまれる。当然のように進学したものの、それに対して親がどれだけ負担してくれていたか、それがどれだけ恵まれた環境だったのか、というのは、その時分は全く分かっていなかった。
希望の大学に行けずに2年間悩み続けた。とりあえず卒業する、大学時代にしか経験できないことをやる、と決めて、それなりに学生時代を充実させたつもりだった。数々のアルバイトを経験し、旅もし、いろんな人に出会った。でも、私には必死になって勉強した時期があったか?このままでいいのか?という思いはずっとつきまとっている。
そのせいか、新聞や広報誌で講演や講座の案内を見つけると、飛びつく。
去年は九州大学と経済産業省との連携講座に通った。きっかけは小さな新聞記事。大学院生と市民対象。受講料無料。教室は福岡市内にあるいくつかの公共の小ホールを日替わりで使用。まずはその日のゲストと経済産業省の方の話。それについて受講生は数人のグループで議論。休憩をはさんでその後は、お話をされた方とコーディネーターの先生のクロストーク。2時間半。終了後、自由参加で懇親会もあった。
有田焼の万年筆を作った方、焼酎の商品開発を手がけた方、商業ビルの運営に携わった方、地元の人や物を活かしたユニークなホテルを経営している方などがお話しされた。新しい視点をもって産業の第一線で活躍される方の話はどれも深い考察に満ちて刺激的だった。
会場が大学の講義室ではなく、街の中心にある円形ホールや美術館の小ホールでユニークな環境。自分の感想や質問を述べる参加型講座。懇親会に出れば、大学の先生やお話をされた方や受講生たちとも親交が持てる場。皆でこの座をつくり貴重な時間を共に活かしているという感触があった。
国立大学が独立行政法人となり、独自色を出しつつある。これまでにない講座を体験し、開かれた大学の姿に大きな期待を持ったものだ。
その後も同様のリベラルアーツや子どもをテーマにした講座に通った。
毎回毎回、学生気分で講座に通うのが楽しみだった。20代から60代のさまざまな人と出会い議論し会話することに、えも言われぬ喜びを感じた。終わると爽快感に満ち奮起させられた。余韻に浸り、そこで得た知識を咀嚼(そしゃく)し友人たちに披露した。
社会に出て仕事をしたから課題を見つけた、さまざまな経験を重ねた今だからこそ学びたい、純粋な渇望で学問に取り組みたい、そんな思いを抱いている社会人は、けっこう多いのではないだろうか。
これから大学が社会に対してそういう場をもっともっと設けてくれるよう望んでいる。