京都府
酷暑無双 二〇一六年八月
【第二日目】清水寺から智積(ちしゃく)院
信者A「観音様、年を取ったせいか、歩くと膝が痛み、毎日つらい思いをしています。信心の証(あかし)に飛び降りますので膝の痛みを取り去って下さい」
観音様「確かに飛び降りたら、歩く時の膝の痛みは気にならなくなるでしょう。二度と歩けなくなるのですから。膝の痛みの代わりに全身の痛みでつらい思いをしますよ。飛び降りは止めなさい」
信者B「観音様、母親が長年患っております胃の病が良くなりますように。頑張って働き、節約をしてようやく貯めた十両をお賽銭として納めました。あと飛び降りますのでよろしくお願いいたします」
観音様「その十両は、母親のために薬を買ってあげるべきではないのですか。何を考えているのですか、あなたは。寺の事務所に行って十両の払い戻しを受けて下さい」
信者C「観音様、今から飛び降りますので死にませんように」
観音様「馬鹿野郎! 死にたくないのなら、最初から飛び降りるなーッ」
なんてその都度、観音様も突っ込みを入れていたのだろう。
地上十二m。四階建てのビルの高さからの飛び降りであるが、死亡したのは三十四人。生存率は、八五%。意外と高い。これは、観音様の慈悲の力、プラス舞台の下の地面が柔らかい土でしかも木々が生い茂っていたためと思われる。
江戸時代にこの舞台から三十四人が飛び降りて死んだことを女房に話すと、横にいた小父さんが、ギョッとした顔で僕を見たのが印象的だった。