はじめに

非日常との遭遇。旅の醍醐味は、これに尽きるのではないだろうか。と、凡俗なサラリーマンである僕は、常々愚考している次第であります。

旅と言っても、僕にとって旅の目的地は、銃弾が飛び交い爆風吹きすさぶ紛争地(命がいくつあっても足りないからカンベン)はもちろん、飢えた肉食獣が潜む密林(消化されて糞になる人生の末路はイヤ)は言うに及ばず、ましてや理想の楽園・シャンバラや黄金郷・エル・ドラードのような伝説の地(どんなに頑張っても行き着くのはほぼムリ)でもありません。

日帰り、もしくは一泊二日、頑張って二泊三日で行けるような、薄給の僕の懐具合に優しい旅です。働いて、給料をもらうまでの過程で、辛いこと、悔しいこと、悲しいことなどは度々あるのに、嬉しいこと、楽しいこと、やりがいを感じることは、たまにあるくらい。そう、ごくたまに。

そんな僕のように、首までどっぷりストレスに浸つかった日々を送る者に必要なものは何か。それは命の洗濯。旅で命の洗濯をするのです。

「お前のちんけな旅で、命の洗濯なんぞ出来るものか」と思うことなかれ。どんな近場への旅でも、非日常は僕たちを待ってくれています。皺くちゃになり、垢にまみれ、くたびれ果てた命が、非日常という触媒により、化学反応を起こし、おろし立てみたいに蘇生するのです。