著者・村瀬英晃氏と個性豊かな社会人で行っている勉強会、学生時代の恩師とのやりとりから生まれた自由な発想やアイデアで問題解決に繋げる水平思考について連載形式で紹介します。
モデルなき時代に有効なディモガス理論
「モデルなき 手探り時代に 有効な テーマ発掘 手法活用」
「要チェック テーマ発掘 アプローチ シーズとニーズの 新結合」
「人生の テーマ発掘 活動を ディモガス理論で 強化しよう」
西田耕三先生は『R&Dテーマ発掘のマネジメント』と題する本を残された。R&Dとは、リサーチ&ディベロップメントの略で、企業等の研究開発部門を指している。
それは、模倣時代から創造時代にシフトしていく日本で「企業がどんな製品や技術を開発するべきかという問題」を、そのマネジメント(テーマ発掘の効果と効率を高める)という切り口から研究した学術的実務書である。
私は、「研究開発テーマの発掘」に関するマネジメント・ノウハウから、「第2の人生のテーマ発掘」のヒントが得られるのではと思うので、ここで紹介しておきたい。
本書は、経営学者と実務家との定期的なミーティングを通じての成果であり、異質な者同士の相乗効果の副産物でもある。西田先生はそのプロセスをIPR(Interactionof Proposal and Response 提案と反応の相互作用)アプローチと呼び、実践理論として組み立てているところが特徴だろう。現役の開発マネジャーやエンジニア、工学部の学生にとって参考になる本であることに間違いはない。
消費不況の中で、事業価値創造に貢献する新製品が求められている昨今、ある開発マネジャーが酒の席で「顧客魅力度を充足する開発テーマが見つかれば、後は何とかなる」と述べたことをきっかけに、「ある開発テーマの遂行のマネジメント問題」から、「テーマ発掘のマネジメント」に焦点を絞ったという。
先生は、開発マネジャーと自身との対話(IPR)を理論開発の実践手法として位置づけている。「IPR」の進め方の中核は、学者である先生が問題解決についての“提案”を出し、彼らがその妥当性、実効可能性を検討した上で“応答”し、それに基づいて先生が再び修正提案を出す……という“相互作用”だと述べている。
※「IPR」というと、知的財産権(Intellectual Property Right)の略と同じになる。
ネーミングも新製品開発の重要事項だが、どこか何でもアルファベットで表現するDAI語に近い。これも先生の遊び心だったのだろうか。
さて、学者にとっての新製品開発は、新たな“理論開発”が該当するが、本書を通じて先生は「GTE(guess, trial & error principle)理論(推測と試行錯誤の理論)」と、ニーズ収集の「ディモガス理論」を考案し紹介している。
※ディモガス理論(E=(Di×Mo×G)×(A×S))。E:情報収集活動の効果、Di:方向づけの適切さ、Mo:動機づけ、G:グレシャムの法則の阻止度、A:担当者の情報源への接近能力、S:担当者の専門知識力
なお、ディモガス理論は、集団(組織)アイデアの創出に関するマネジメント・スキームなので、製品開発だけでなく、勉強会仲間における年度テーマの生成手法としても活用できる。
テーマ発掘に「堅苦しい雰囲気」は、マイナス効果はあってもプラス効果はほとんどない。
また、その中の要素として、テーマ要件の設定や、テーマの戦略的探求、候補テーマの評価と選択といったプロセスや、セルフマネジメントは、個々人の人生テーマの発掘にも直結する重要なノウハウといえる。
前に述べた後輩の第2の人生テーマの発掘作業も、先生の理論(分析概念)を使って説明できると思うのだ。(2019・10・13記)