追想・東芝3億円強奪事件

「おい、キンちゃん。俺は東芝の従業員に出る冬のボーナスの全部を奪ってやろう、と思っている。キンちゃん、ちょっと手伝ってくれんかな」
「えっ! 何、本気かよ?」
「本気だ。課長から、あれだけ馬鹿にされたんだ。頭にきているよ」
「確かに、頭に血が上ったな。でも……」
「大丈夫だ。心配いらねぇ。任しておけ」

その実行の日が1968年12月10日だった。朝から雨が降っていた。強奪の場所は、東京府中市の府中刑務所の塀がある道路が最適だ。

板橋は、東芝の従業員であるから当然ボーナスの支給日を知っているし、ボーナスを運ぶ車がその道を通ることも知っていた。普通のオートバイを白バイに改造することなんて、板橋にとっては難しい仕事ではなかった。偽白バイは、府中刑務所近くにある墓場の空き地に隠しておいた。

墓場の近くへ板橋は、修理したポンコツのカローラで行った。道路脇まで行って、ボーナスを運ぶ乗用車が走って来るのを見つけた。板橋は、通り過ぎた乗用車・セドリックを追いかけた。その時、彼は、オートバイが雨防止のシートを引きずっていることに気づいた。