だが、それを取り除く時間的余裕はなかった。それよりも「発煙筒」が確かにあるかに気を遣っていた。セドリックを停車させ、発煙筒を使い、「爆発物が仕掛けられている」とセドリックの乗員を驚かすなどすべてが計画通りに運んだ。

大金を手に入れた。現金が入っていたジュラルミンケースの放棄は、金田に頼まず板橋が、小金井団地に捨てた。

犯人のモンタージュ写真が新聞に掲載された時には、胸の鼓動がドキン、ドキンと打った。細面、色白で唇が薄い。一見好男子。犯人は23〜24歳で、身長約168㎝。何もかも的中している。

現職の白バイ警官の19歳の息子が、犯人と疑われたのを苦にしてか、自殺した。気の毒だが俺とは関係ない、と板橋は思った。

会社にも警察がやって来て調べた。板橋も調べられたが、なぜか甘い取り調べであった。会社を休んだ期日なども調査の範囲にあったが、彼は強奪事件のずっと前から、よく会社を休んでいたので、その点は怪しまれなかった。

問題は「顔」であった。短期間のうちに板橋は、暴飲暴食をして丸顔になった。髭は剃らなかった。髪の毛は伸ばし放題としていた。