大会社消滅

関東地区にVIP(ビップ)自動車会社がある。VIPは東明自動車と関係深い会社である。購買部門に籍を置く三島晃課長は、事務所全体に視線を向けた。特に変わったことはない。

しかし、平穏に見えても、会社は大きく揺れ動いていた。大きな揺れは、中島有三社長と社長候補で常務取締役の本山拓也の争いである。品質管理部門、車両実験部門の間の争いも消えていなかった。

中島有三社長は東明自動車より天下って来た人物である。社長はもともと東明自動車の生え抜きではなかった。同社の中でもあまり評判がよくないので、追い出されるような格好でVIPの社長についたのだ。

VIPは社長として中島氏を受け入れたくはなかったが、東明自動車との関係を悪化させたくないので、やむを得ず承諾したのであった。

中島社長が気兼ねなく使える部下は、内川重夫専務である。仕事への取り組み方は、社長とそっくりである。社長と対極的な人物に本山常務がいた。彼はVIPのプロパーである。

社長、本山常務はともにT大学を卒業している。本山常務のほうが社長より3歳若い。

T大学を卒業と言えば、第一設計部長の久山康彦もそうだ。久山部長は本山常務と同期生である。彼は、機械工学、コンピューターサイエンスなどの工学から、物理、地球科学、生物学などの基礎自然科学、古事記、超古代史、経済学、経営学などの人文社会科学に及ぶ広範な研究・評論を行っていた。

実に優秀な人物である。しかし、社長の中島有三とは馬が合わなかった。社長は久山康彦を冷遇した。だから久山は実力があるのに社内の昇進では遅れをとっていた。三島晃課長は、この久山部長が好きだった。迷ったり、困ったことが生じると彼に相談した。