奉公

そこで両名主と平吉が再び話し合い、伊助が七歳になったら九右衛門のところに奉公に上げ、借金返済のため都合十年間、作男として働いてもらうという取り決めが交わされた。初は泣いて反対した。

しかし二十両の大金はすぐに返せるはずもなく、三反歩の畑を手放せば一家路頭に迷うことになる。初は下女奉公でも人足でもするから伊助はそばに置いて育てたいと言ったが、いずれ十年経てば伊助は戻ってくる。そのときまでの辛抱だと説き伏せた。

伊助が九右衛門の家に奉公に上がる日が来た。平吉が伊助の手を掴んで諭した。

「伊助、辛いこともあろうが十年辛抱してくれ。借金が返せねえんだ。おめえの兄さんたちが亡くなって跡継ぎがいなくなっちまったから、おめえを養子にも出せねえんだ。だから年季奉公に出さなくちゃあならねえ。勘弁してくれ！」
「やだ！　おいら、おとうやおかあと一緒にここで暮らしてえんだ。なんでも言うこと聞くから、……おかあ、おとうにおいらをここに置いてくれるよう言ってくれ！」

必死で訴えたが、初は土間に膝をついてただ泣いているだけで何も答えなかった。伊助は恨めしげな目を母に投げながら連れられていった。