インフォメーションで帰りなさいと言われたのに、ここでフレンチクルーラーを食べているのだ。怒られるのは確かだろうとアッキーは思うのに、何てことを聞いているのかひやひやしていた。が、大滝ナースはさらりと、ごく当然のように、

「私は、アッキーママと田畑さんの担当のナースですよ」

さらりと言ったのであった。アッキーはここは毅然とした態度で応じたいと思い、立ち上がると、

「僕はアッキーママの息子です。母がお世話になっております」

少しだけ大人っぽく意識して息子である事を強調して答えた。大滝ナースは、青いアイシャドウの目を細めて、

「息子さんがいる事は聞いていたけど、まあまあ、とてもイケメンなのね」

そう笑いながら言うとまた歩いて急いでどこかへ消えてしまった。アッキーは頭がごちゃごちゃしてきた。田畑さんにお金を借りてお茶を買った。

田畑さんはアッキーママと友達だ。田畑さんはひまりを意識している。フレンチクルーラーを田畑さんとひまりは食べている。

大滝ナースに会った。大滝ナースはアッキーママの担当。大滝ナースは田畑さんも担当。この一時間にも満たない時間に起こった出来事を、頭で整理することも、理解もできずにいるアッキーだった。

そして、目の前にはまだ、田畑さんとひまりがフレンチクルーラーを美味しそうに食べている。ちょっと前にアッキーはひまりを、必死におんぶしていたことは事実なのだ。何だか空虚感か、むなしさか、大きなため息がでたアッキーだった。