新兵

一月の最後の日曜日、藤村上等兵が部屋に入ってきて、「杉井二等兵、面会人だ」と言うので、急ぎ面会所に行くと、思いもよらず、謙造と安治叔父と謙造の商売仲間の和島新平が来ていた。

謙造は謙一の姿を見てにっこり笑った。安治は、「入隊間もないのにすっかり兵隊らしくなったな。連隊での生活は慣れてきたか」と訊いた。

「朝から晩までビッシリ詰まった日程でやっているので、慣れるとか慣れないとか言っている余裕もありませんが、何とかついていってはいます」
「食事はどうだ。うまいものは食わせてもらっているか」
「そう豪勢なものという訳にはいきませんが、満足のいくものはいただいています」

連隊の食事は決して美味しいものではなかったが、軍人勅諭五ヶ条の「軍人は質素を旨とすべし」を思い出し、そう答えた。今度は謙造が訊いた。

「訓練はどんなことをやっている」
「徒歩訓練に始まって、砲手訓練、それに乗馬訓練もやっています。寝る前には学科の勉強もしています」
「うむ。そのあたりは昔と変わらんなあ。馬はうまく仕込めているか」
「なかなか古参兵の方たちのようにはいきませんが、それでも馬というのは可愛いものだとつくづく思います」

まだこの時点では神風は十分なついていない状態だったが、杉井は強がりを言った。