一通の手紙

「しかし、私は九月までしかここにいませんし、士官になってもならなくてもそう遠くない将来出征する身です。そうなれば会うこともできないし……」

「それは何遍も伺って分かっています。ここに九月までしかいらっしゃらないからこそ、それまでは会っていただきたいのです。それとも、こんなに何度も面会に来るのを煩わしくお思いでしょうか」

「煩わしいなどとそんな……」

「それなら私のわがままを聞いて下さい」

「……」

結局、杉井はその後も多恵子と会うことになった。杉井なりに気持ちの整理をつけて、結婚できない以上会うべきでないと多恵子に伝えようと思ったが、多恵子の方で結婚など関係ないからとにかく会ってくれと言われると、それ以上何を言うこともできなかった。

真剣にじっくりと考えた上での結論であったのに、それがこんなにもろく崩壊するとは杉井も予想しなかった。引き続き多恵子と会えることを嬉しく思う気持ちが自分の心の中にあることを杉井は否定できなかった。しかし、いずれ来る別れがより辛いものとならないように、多恵子に対する感情が現状よりも発展することは防止しなくてはいけないと思った。

そんな杉井の胸中を知ってか知らでか、多恵子の方は、少なくとも外見上は今までと何も変わるところはなく、毎回菓子類や煙草を差し入れながら、杉井と明るく朗らかに話をしては帰っていった。