新兵

夜になるのを待って、杉井は便所に行くふりをして乾燥場に行った。そこには他人の襦袢袴下がそれぞれ五、六枚干してあった。盗まれた枚数分失敬して部屋に戻り、寝台に潜り込んだが、なかなか寝つけない。

盗んできた下着は若干黄ばんだ中古品で班長の代用品にはならない、こんなことでは当番兵として失格の烙印を押されることは必至であり、そうなれば二ヶ月後の検閲で落とされてもう出征だ。そんなことを繰り返し考えているうちに朝となった。

問題というものは自分一人で抱え込んでいてもろくなことはないと常々考えている杉井は、勇を鼓して隣に寝ていた大宮に相談した。

「上等兵殿。班長殿の下着を盗まれました」

大宮は眠そうに目をこすりながら、「やられたか。それでどうするつもりだ」と言った。大宮の口調から、この種の出来事は珍しいことではないのかも知れないと杉井は思った。

「代わりにこれを盗んできたのですが、班長殿のものとは程度が違って代品になりません」

大宮は、杉井の持っている襦袢袴下を一瞥すると、「これは俺のだが、構わんから代品に使え」と言って、自分の下着をポンと杉井に投げた。