弥生編

翌朝セイを出て、その日の夜には、江の支流を南に少し入ったところにある、ロユユの故郷の鄙びた村にたどり着いた。陸家は、この村と付近の湿地を開拓した一帯の領主である。元気な父母と弟妹たちに会うと心が和んだ。

だが、それからが大変だった。何日掛かるか分からない航海に十分と思われる食料やその他の物資を集めるのは困難だったし、年老いた父母や村人に、海を渡るように説得するのはさらに困難だった。越の手酷い扱いを信じないわけではなかったが、危機が目の前に迫らないうちに、土地や財産を捨てようと思う者は少ない。

それでも、ユユ兄に付いていくと決めた弟妹や村の若い者たちの懸命の努力によって、数日のうちには、大きめの船十数隻に、およそ数か月分の食料と水の入った壷、帆布や綱、鋤や斧などの道具や大切な種もみなどを集め、積み込むことができた。しかし、大きいとはいっても川船である。海を往くのに耐えられるかどうかは、いかにも心もとなかった。

無事に海の向こうにたどり着けたとしても、厳しい暮らしになるだろう。ロユユは、一部の者たちを先に出発させることにしたが、ユユと弟妹がいくらなだめてもすかしても、父は「あるかどうかもわからぬ地を目指して海の藻屑になりに行くくらいなら、この家で死ぬ方がましじゃ」と言い、母と揃って涙を流すばかりである。