ユキチのめがね
ふたたび、野原にさしかかったときのことです。
「えっ?」
風もふいていないのに、目のまえの草花が、ザザッと左右に分かれたではありませんか…。
「う、うそだろ?」
とつぜんできた野原の道は、まるでヤマトを、出むかえているかのようでした。
「あっ…」
野原の道のはんたいがわに、ヒロユキがうつむいて立っていました。ヒロユキは、足もとの草花をながめながら、ゆっくりとこちらに歩いてきます。
ふしぎなことに、ヒロユキがススキを見たとたん、ススキは白いほを、イソギンチャクのように、うごかしはじめました。たくさんの黄色い花をつけたアワダチソウも、かたをくむように、よこにゆれはじめました。
ヒルガオは、ヒロユキのほうに、いっせいにピンクの花びらをむけました。そしてネジバナは、たのしそうにクルクルとまわりはじめました。
「こ…これ、なんのマジック?」
ヤマトは、いきをはくのもわすれそうなくらい、びっくりしました。
「マジックなんかじゃないよ」ヒロユキが、草花を見つめたまま、クスッとわらいました。