なぜ、認知症なんかになるんだ――。物を失くす、使えなくなる、物忘れが増える……。刻々と変わりゆく妻の様⼦に⼾惑う⽇々。初めての介護に苦戦しつつも、⾃分なりの⼯夫をして乗り越えてきた。葛藤と妻への感謝をありのままに綴ったエッセイを連載でお届けします。
ついに妻が一人で留守番をすることに
ゴルフに行く日。「お父さんは、今日はゴルフに行きます」とカードを冷蔵庫にぶら下げ、ゴルフ場の電話番号を書いて妻に伝えた。
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「今日は、○○ゴルフ場に行ってくるわ。何かあればここへ電話して、それから、チラシを渡しておくので、ご苦労やけどゴミ箱作っておいてね」と伝えると、
「うん、分かった。作っておくわ。お父さんも息抜きしてきて」と優しく言ってくれた。
「息抜き」という言葉を使った。私に世話をかけていることを、十分自覚してくれているゆえの表現だった。とても嬉しく思った。これからも妻をもっと大事にしようと思った。
ゴルフ場から帰宅した。きちっと60個のゴミ箱が、箱に入れてあった。
「よう作ってくれたね。全部折ってくれたん。ありがとう。ご苦労さま」と労をねぎらった。
「これ、ゴルフ場のお土産や」と好きなあんこの入った饅頭をお土産に渡した。
「ありがとう」と言いながら妻は喜んで食べてくれた。
ゴルフに行くたびに、これを繰り返した。あるとき、帰宅すると、ゴミ箱が、全く作られていなかった。そばに作りかけのチラシがあった。
「作りかけたけど、途中でやり方が、分からなくなったの」よく見ると、やはり、手順5で止まっていた。
「そうか。ここは、こう折らないとうまくいかないわ。お父さんが、手順を分かりやすくしたものを作っておくわ」と、12手順の番号を振り一つずつ大きな台紙に実物を貼って一覧にして分かるようにした。
「もし、間違って分からなくなったら、これを見て参考にしなさい」と扉に貼った。