なぜ、認知症なんかになるんだ――。 物を失くす、使えなくなる、物忘れが増える……。 刻々と変わりゆく妻の様⼦に⼾惑う⽇々。 初めての介護に苦戦しつつも、⾃分なりの⼯夫をして乗り越えてきた。 葛藤と妻への感謝をありのままに綴ったエッセイを連載でお届けします。
自分のことや家事をなるべくやらせた︙行き先カードを冷蔵庫に吊る
妻にはできる限り自分のことや簡単な家事はやるように仕向けていた。自分で考え、自分で行動することが、脳に刺激を与えるからだ。
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妻に「今日は、何月何日?」と聞く。「分からない」と答える。カレンダーを見ても、今日の日が分からなかった。
「新聞を見て、お父さんに教えて」と言うと、「今日は、○月○日です」と言う。「はい。そうです。○月○日です。カレンダーでは、どこですか?」と聞くと指で差した。「よくできました」とまるで子供との会話みたいだった。
これを朝食の前に時々やっていた。時折、新聞が置いてあるとチラッと見てカンニングして言うときもあったが、それでも新聞を見れば分かると判断することが良いと思い「良くできました」と褒めた。
N施設のデイサービスに行く日は、月水金の週3回にした。言葉で伝えても、すぐに忘れるので、準備を常に意識させるため「今日はデイサービスの日です。着替えの準備をしてください」とA4の用紙に書き、冷蔵庫の扉の中央にぶら下げた。台所に来る都度、目にするので、「お父さん。今日は、デイサービスの日やね」と言ってくれた。
時には逆効果もあった。「お父さん。しんどいから今日のデイサービスは行くのやめるわ」と言った。そんなとき演技した。妻が信頼するデイサービスのM先生の名前を出して、「今日は、M先生が面白くて楽しいイベントがあると言ってたよ。豊子さんに来てほしいと頼まれた」とか、妻は送迎の女性の運転手さんが好きだったので、「Kさんがお前を迎えに施設を出たと連絡があったよ。迷惑かけてはいけないのと違う」と言うと、約束を守る性格だったので素直に従った。