邪気:90 代謝:80 正気:80
入学式には母親も出席予定で、前日に高知から京都入りし、駅前に宿泊していた。元来方向音痴の母は、一度引っ越しの際にアパートには来ていたものの、二度続けてたどり着く能力はなかったようだ。
朝六時三十分前、近くまで来たから迎えに来てと電話がかかってきた。この日ばかりは遅れないようにと早く起きてはいたが、それにしても早い。寝ぼけ眼まなこで慌てて家を飛び出し、まだ人通りの少ない歩道に佇む母を連れて部屋に戻る。
靴を脱ぐや否やタクシーで来たのに思った以上に時間がかかったと不満を口にした。いったい何時に着くつもりだったのだろうか。昔から心配性で、いつもこうなのだ。
おまけに朝すぐ食べられるようにと、おにぎりやサンドウィッチなどをしっかりコンビニで買い込んでいた。予定をきっちり立て、それを早め早めに実行していく母なのでこういうときは助かるけれど、息苦しいことの方がはるかに多い。
二週間前に買ったばかりの真新しいスーツに袖を通す。ぼさぼさの髪を引っ張りながら、櫛ぐらい通せばと促され、寝ぐせがなくなる程度に蛇口から出る水で整えた。
だいたい高校三年生の夏まで坊主頭で、それ以後もかっこよく身なりを整えるなどという感覚がまるでなかったから、当然櫛なんて使ったことがない。
この部屋に櫛があっただけでも奇跡的なことなのだ。ただそれを言われるまでもなく、今日ばかりはこういうのも必要だろうという一般常識は自分の中にも転がっていたようだ。
入学式は九時からで、アパートの近くからバスで十分もあれば着くのに、急かされるまま八時前には部屋を出た。もちろん早く着いたが、案の定時間を持て余すことになった。
※本記事は、2020年11月刊行の書籍『桜舞う春に、きみと歩く』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。
★邪気指数、新陳代謝指数、正気指数
漢方の立場で見た、主人公沢波俊樹の体調を示します。本来、漢方にはこんな指数はありませんが、これに近いことをもっと細かく考えながら対処します。これらの変化は人によって異なります。
●邪気指数
体の中に溜まった不要なもの(邪気)の量を示す指数です。邪気は誰の体の中にもあります。食事の質や偏り、嗜好品、食べる時間などで変化しやすく、新陳代謝指数が下がり排出が悪くなることでも上昇します。邪気がかゆみの元にもなることがあります。ここでは50~150を正常範囲とします。150を超えると体調を崩しやすくなります。ただし、正気指数が高い方は、邪気指数が高くなっても体調を維持することができます。
●新陳代謝指数
体の中の、良い物(正気)、悪い物(邪気)がどれだけスムーズに動いているかを示す指数です。通常人が生きていく中で、良い物(新)を取り入れて、いらないもの(陳)を排出しています。それがスムーズに動いていること(代謝)が大切です。飲食の消化吸収、大小便での排出、血流、発汗などトータルの指数とします。運動不足やストレスなどで低下します。ここでは70~100を正常範囲とします。新陳代謝指数が下がると邪気指数が上がりやすくなり、下がっているときには正気指数も下がっていることが多くなります。
●正気指
数
体の元気(エネルギー≒正気)の指数です。バランスの良い飲食で満たされ、ほど良い休息をとることで作られます。逆にストレスや過労で低下します。正気が少なくなると、体のだるさや意欲の低下がみられ、免疫をコントロールする力が弱り、かゆみを抑えられなくなり、症状が悪化します。ここでは70~100を正常範囲とします。正気指数が高いと新陳代謝指数は上がりやすく、邪気指数が少々高くても生活に支障はありません。