令和元年のフットボール
…S兄さんのはだかの頭は打ちくだかれて、黒く平べったい袋に似ている。そこから赤いものがはみだしている。頭の実体もそこからはみだしているものも、すでに乾いて晒された繊維質のようだ。
大江健三郎『万延元年のフットボール』
ラグビー・ワールドカップ日本大会での、日本代表の活躍は多くの人々を釘付けにした。まるで日本中が皆ラグビーファンになったかのようであった。
日本代表は、ロシア、アイルランド、サモア、スコットランドを次々と撃破し、ベスト8に進んだ。そしてベスト4をかけて、この日、南アフリカと対戦することになっていたのだ。
杉田は、奇蹟的に手に入れたチケットで、フットボールの試合を観に、調布市にある東京スタジアムにやって来たのだが、こころのほか不快だった。その理由は観客に女性が多かったからである。
杉田は女性を差別していた。彼の嫌いなものは、一番目は女子高生で二番目はおばさんで、三番目はおばあさんだった。好きな言葉はハムレットの名言Frailty, thy name is woman!(女は弱いから怖い)である。