第一部 八荘源

第二章 青春の宴

香奈と茜は駅まで歩いてきた。茜は郊外の方に行く電車。香奈は都心の方へ一駅。
いつも電車が来たらそこでバイバイという事になる。

「香奈は彼氏いるの」と茜は聞いた。香奈はびっくりして茜の制服の襟のあたりに目をやった。
「いない、あんまり興味ないし」

「そんなこといってるから、オトコのかわりなんていわれちゃうんだ」
茜は唇を突き出すようにしてそういうと、不意に、
「ああ、うざいうざい、誰か彼氏紹介してくれる人いないかなあ」そういって、カバンを大きく振った。他校の生徒らしい、チェックのスカートの子たちが振り向きざまにくすくす笑って駆け出した。

香奈はふと思いついた。
「茜ちゃん、合コンしてみる気ある?」
「合コン?」茜はあっけにとられたような顔でそういうと、香奈の手をつついた。
「呆れた。香奈ってそんな友達いるんだ。それとも冗談?」
香奈は少し困った。

「合コンて言ってもね、うちの兄貴たちのグループとよ。それでもいい?」
「いいよ、面白そう」茜は大喜びだった。

香奈はつい口に出してしまったことをもう後悔する気になっていた。
香奈の兄の村上は、大学二年生である。親分肌の彼は、大学の仲間を時々家に連れてくる。

「おい、今度合コンやろうや。香奈ちゃん、女子高の友達を何人か連れてきてよ。五人ぐらい、ね、頼むから」そういわれて一度はすげなく断った香奈だったが、茜に誰かいないかなあといわれて、ふとこのことを思いだしてしまったのである。

だがいったん口に出してしまった以上後には引けなかった。
「約束だよ。後の子はわたしがそろえるからね」

急に元気になって電車に乗り込んだ茜に、香奈はバイバイと手を振りながらため息をついた。