第一部 八荘源

第二章 青春の宴

香奈には茜という友達がいた。香奈と茜が親しくしていると、それが早速噂になった。

あの二人、なんだか怪しいわ、だって、あんなお高い子とあんな開けっぴろげな子がどうして友達になれるの。きっと二人には何かあるのよ。え、何、何があるの? ふ、ふ、わからないけどなにか。

お高いといわれたのは香奈のほうだった。もちろん、香奈は自分でお高いと思ったことはない。噂を聞いてもへえ、そんな噂があるんだ、程度にしか思わなかった。茜の方は噂が気になった。

「陰口をたたくやつがいるんだ」
茜は時々憤慨して香奈にそういった。

茜は友達が大勢いないと、我慢できないタイプの子だった。茜はいつでもいろいろな友達と話をしたりメールを交換したりしては、その情報を持って香奈のところにやってきた。香奈はいつも学校からの帰り道で、茜の世間話を聞いた。

二年生になりたての春のことだった。

「あら、もう帰るの、ご一緒に」
幾分とげを含んだ同級生の言葉に送られて、二人は校門を背にした。

「わたし、我慢できない」
校門を出ると、茜が言った。

「どうしたの」

躑躅の紅が美しい季節だった。初夏を思わせる暖かい陽気で、制服の袖が汗ばんでいる。香奈は雑草の蒸れた匂いを思い切り吸い込んだ。空が高く校舎が大きい。