三
その週末のことである。駒込の村上家のリビングルームには五人の男が集まっていた。村上の両親は会社員だが、なかなか大きな家に住んでいる。リビングは二十畳ほどもある大きなもので、応接セットが置かれていた。テーブルの真ん中に、ジュースやクラッカー、チーズにソーセージがきれいに盛られている。
「じゃあ、親父さんやおふくろさんは何も知らないわけだな」
背が高く、サングラスを掛けた長髪の男が言うと、村上は苦笑した。
「それじゃあ、六時まではフリーってわけだ。それじゃあそろそろお前、香奈ちゃんたちを呼んでこいよ。ご対面と行こうぜ」
「お前はほんとに仕切りたがるやつだな」
「中条からこの才能を取ったら何が残る?」
やせた目の鋭い男がそういって、セブンスターに火をつけた。
「俺が仕切り屋なら、お前は皮肉屋だな」中条と呼ばれた男はそう返すと、壁際に座っていたもう一人の方を向いた。
「こばやんもそろそろ彼女の一人も作らないとなあ」
「それは小林一人じゃない」
村上は、こまめに動いて椅子を一つ壁に並べた。
「俺を除けばみんなもてない連中の集まりだ。感謝しろよ」
「冗談きついぜ」
五人はF大学の弁論サークルの仲間だった。弁論サークルといっても、弁論技術を磨いているわけではない。名前だけのサークルを作って、時々集まっては遊んでいるだけである。だが、弁論部と称するだけあって、そこには不思議な学生たちが集まっていた。
一見遊び人風の中条。実は彼は閣僚を歴任した中条代議士の孫である。
中条にくっついているのが、真面目そうな笠井。彼もまた、地方の県会議員の息子で、将来は父の後を継ぐといわれている。
後の三人は政治には関係がなかったが、それぞれに一癖ある男であった。村上は法学部在学中で、五人の中では一番勉強家だ。将来は官僚になって出世したいと人前でも公言したが、からっとした性格だったので、不思議といやみがなかった。
皮肉屋と言われた小林はいつもどこにいるのか分からないような男だったが、頭の切れは一番よかった。だから誰もが彼には一目置かざるを得なかった。最後に残った風間は一番ハンサムだった。だが、彼はいつも授業をサボり弁論サークルの集まりにもあまり出ないで、演劇サークルの仲間と芝居を作っていた。