あのコンサートの日や教室とはまた違う少女が、このしだれ桜があるベンチに居るのだった。ひまりは決して美人とか可愛いとか表現する事はできないけれど、素朴な空気感を感じるのがアッキーには不思議だった。

しだれ桜のベンチで二人してずっと空を見上げていられそうだった。アッキーはもらったキャラメルをすぐに食べてしまった。するとひまりの方から話しかけてきた。

「みんな、桜は満開、満開って言うけどね、桜吹雪の中で道路がピンクの絨毯になっているのが私はとても好きなんだ」
「そうなんだ!」
「うん、このしだれ桜のベンチがとても好きなの」

ゆっくりだがはっきりとした話し方だった。そしてケラケラと口を開けて笑うのだった。アッキーは思い切ってひまりに質問した。

「学校、面白い?」

すると、ひまりは恥ずかしそうに

「友達がなかなかできないの。最近はもう、ひとりぼっちでも良いかなぁと思い始めてるの」
(ひとりぼっち~、え~、ひまりが、ひとりぼっち)

アッキーはひと呼吸すると空を見上げながら思い切って言った。

「そうなんだ~、そっかぁ~。ならさ、ならさ、よっしゃ! 俺が第一号の友達になるよ。どこか、ご不満はございますでしょうか?」

改まった言葉尻が可笑しかったのか、ひまりは大きな目を細くしてケラケラと笑うのだった。

「友達は女の子を希望しているんだけど……」
「そんなのどっちでも良いじゃんか!」

そう言うと笑いながらベンチから立ち上がり、大きく手を広げて背伸びをした。