教室
放課後、村上団地をアッキーがひとりで歩いて帰る途中だった。少し前のベンチに女の子がひとり座っていた。
その後ろ姿は紛れもなくひまりだとわかった。なるべく静かに歩いて三メートル程の距離に近づくと、
「お~い! ひまりちゃん」
アッキーはひまりに嫌われたらどうしようか?と、随分と悩んで声をかけたのである。コンサートの日から話をしていない。教室では周りの生徒を意識しているのか、避けられているようにも感じていた。
「あっ、こんにちは」
教室では会釈だけだったのに返事をしてくれたことにアッキーは嬉しくなり、ひまりの座っているベンチに駆け寄った。
「何してるの?」
思い切って尋ねた。嫌われてひまりがベンチから立ち上がって、どこかに行ってしまうかも知れない。ドクンドクンと心臓の鼓動が早くなっていることが、アッキー自身にもわかり、また顔までもが熱くなってきた。
緊張しているアッキーに、
「駅まで行く途中の休憩タイムなの」
「へ~、そうなんだ!」
教室では見られない笑顔がそこにはあった。拍子抜けしているアッキーにひまりは、
「キャラメル食べる?」
「食べる、食べる、食べる」
「でも、ごめんね、あと二個しか残ってないよ~」
ひまりの横にもう一人座れる間隔を空けてアッキーは、そっと静かに座った。