おそらく榊原氏は借金までして、その宗教に入れ揚げた挙句債権者から追いかけられる毎日になって、姿をくらますことを考え付いたのでしょう。」

聡は、この無責任な記事に腹が立った。だいたい、債権者から追いかけられているのなら、娘から自分に一言ぐらい相談があるはずではないか。

仮に親には話せないと思ったとしても、しつこい連中のこと、親の私に少しばかりの資産があるのを狙って、押しかけてくるぐらいは当たり前の話で、親の私が何一つ知らないとは考えられない。

そもそも、華水教などという聞いたこともない宗教は何なのだ。そして、現場にいた自分や警察に取材らしい取材もしないで、あのような記事を書くとは何様のつもりなのだ。

腹に据えかねた聡は、何度か「早耳デスク」の編集部に電話をして、取材した記者と秋沢という男に会いたいといった。何度目かの電話でようやく出てきた編集部長の答えは、しかしながら案外なものであった。

「あの記事は、実はうちの記者当てに匿名で届いたものなんです。秋沢という男が実在するかどうかは分かりません。うちでも裏を取らないで、記事にしてしまったのは申し訳ありませんなあ。

しかし、警察に取材はしましたよ。華水教という教団については、実在する教団ですが、実態は分かりません。もしも記事を出したことについて抗議されるのならば、謝罪広告を出すことは検討しますが、津山様の名誉まで傷つけたとは思いませんので、それも当社としては難しいですなあ」

なんとも煮え切らない答えであった。