この到底あり得ない体験がもたらす異常な推理。宗像の網膜と頭脳はたちどころにショートしてしまった。エリザベスとは→絵の中の女アンナ→双子の姉妹→ユーラは亡くなっているから……彼女は……ユーレ、というように、まさに冷静とは思えぬ強い思い込みに到達してしまったのである。

気がつくと、宗像は勢い良く扉を開けて室内に飛び込んでいた。突然の侵入者により対話が中断され、エリザベスと店主は驚いて、いっせいにこちらを振り返った。

逆光を背に、近寄ってくる宗像の顔は二人にはよく見えなかった。室内の白熱灯の明るさが外の光に勝る位置まで男が近づくと、今度はエリザベスが驚く番だった。大きく目を見開き、右手の人差し指を突き出して絶叫した。

「宗像さん! 宗像さんではありませんか? なぜここに? あなた……リスボンに行ったのではありませんでしたの?」

「エリザベスさん、あなたこそどうしてここに? 結婚披露宴はどうされるのですか?」

気持ちを高ぶらせた宗像は一歩も後へ引かずに言い返した。ピンと張り詰めた空気が店内に流れ、一瞬時間が止まったようだった。いったんは驚いた様子の店主も、二人が知り合いらしいことが分かると安心した顔色になって、こう言いながら店の奥に消えた。

「何だ、お知り合いですか? ではお茶でも入れましょう。どうぞごゆっくりしてください」

店主が消えたのを見計らって宗像は言った。異常な体験がそれを後押ししたのだろうか、何時にもなく断定的な口調だった。

「エリザベスさん。いえ、ユーレさんと言った方が良いでしょうか。あなたはユーレ・フェラーラさんですね? そしてこの絵の女性があなたの母親のアンナさん」