第2章 医師法第21条(異状死体等の届出義務)条文の歴史的経緯
(1)医師法第21条の歴史と異状死体の意味するもの
本項のまとめ
本来、医師法第21条は旧医師法施行規則第9条当時から、診療関連死を対象としたものではなく、診療関連死以外の変死体の届出義務であった。一九一八年(大正七年)大審院判決、一九六九年(昭和四十四年)東京地裁八王子支部判決のいずれも『外表異状』(外表を検査し異状を認めた死体)を『異状』の判断根拠としている。
ただ、変死体の検案に際し、周囲の状況の『異常』を念頭に『外表の異状』を判断するということと考えられる。
二〇一九年(平成三十一年)二月八日付けの医事課長通知(「医師による異状死体の届出の徹底について」)で、従来の解釈との整合性に疑義が生じたが、結論としては、医師法第21条の解釈は従来通り、診療関連死以外の死体についての規定であり、死体の外表を検査して異状を認めたものについては届出義務がある。
ただ、診療関連死以外の死体については、検案を行うに際し、死体が発見されるに至ったいきさつ、死体発見場所、状況等を考慮して死体の外表を検査し、死体外表に異状が認められた場合は警察署に届け出る義務が生じるという解釈という結論に至った。
もちろん、死体を検案して犯罪の疑いを持った場合は医師の社会的責任として、警察に「連絡」し連携をとるべきことは言うまでもないであろう。
ちなみに、東京地裁八王子支部判決は医師法第20条部分の判旨に誤りがある。誤りある判決文を行政通知に引用することについては違和感を禁じ得ない。