第一章 発達障がいに悩む人たち

社会に馴染めない大人たち

発達障がいと聞くと子どもに関連することと思われがちですが、今、大人の発達障がいがさまざまなところで問題になっています。詳しくは第5章で触れますが、10年以上前までは、発達障がいが一般的にはあまり知られていませんでした。

そのため、小・中学校、高校、大学と見逃され、大人になり、今になって初めて自分はADHDではないかと気づきクリニックへ相談に来る大人の方たちが増えつつあるのです。大人になって気づければまだいいのですが、気づかず、さらに周りから指摘されても、自分は普通だと思い込み相談しない方も多くいます。

ある日、知り合いから自分の部下の営業マンについて、相談をされたことがあります。話を聞く限り、その会社の営業マンは、ADHDを伴った自閉スペクトラム症の可能性が高そうですが、本人はそのことを認識していないようです。

歳は40代前半で、それなりの大学を出て一時職に就きますが、その後転々とし、ようやく今の会社に正社員の営業マンとして採用されました。まだ結婚もしていません。

会社でうまくいかないことに違和感は覚えつつも、そのままやり過ごしてきたそうです。彼には、同じミスを何度も繰り返す癖があり、今の会社に正社員で入ってからも忘れ物や指示を聞いていないなど小さなミスを何度も繰り返していました。

ある日、知り合いの上司はプレゼンのためにその営業マンと出張するということで、羽田の喫茶店で待ち合わせることになりました。事前の打ち合わせで、上司は予定表を見て、「空港での待ち合わせ予定時刻が出発20分前では遅いのでは?」と尋ねましたが、頑なに「大丈夫です」と彼は言い切りました。