さすがはプロのガイドである。ただで酒を味わい、夜のために昼は軽く済ませるとは泣かせるような気配りではないか。早朝の抑えられていた陽光が一気に弾かれたように射し始め、乾燥した爽やかな風が後方へ流れた。
ダーク・ブルーのメルセデスはホテル・アトランティックまでを一気に走ると、そのゆったりとした車体を玄関に横付けした。
広いラウンジで雑誌を読んでいたエリザベスは、遠くから近づいて来る宗像に気がつくなり立ち上がって、微笑みながら左右に小さく手を振った。
「おはようございますエリザベスさん。よくお休みになれましたか?」
「おはようございます。おかげさまでとても快適に。宗像さんはいかがでしたか?」
「私もぐっすりです。どこでも寝られますから」
エリザベスは上品な甘さを持続させながらも、爽やかさを失わない夏の香りを漂わせていた。真っ白な麻のブラウス。黒の細身のパンツにターコイズ・ブルーの幅広ベルト。そして同色の靴とバッグのコーディネーション。
白いカーディガンを軽やかに羽織りながら、明るいブロンドの髪を巻き上げた頭には、スポーティな横長のサン・グラス。光によってキラキラと反射する目。それは萌えたつような瑠璃色に澄んだ瞳の中心で大きく見開かれていた。
促されて傍らの椅子に座ると、先ほどまで読んでいたのだろうか、テーブルの上に置かれた雑誌を取り上げてエリザベスが言った。
「この雑誌、もうお読みになりました? ポルト市の情報誌[GUIAPORTO2001]です。今まで読んでおりましたのよ。人口三十万人足らずの街ですのに、ポルト、なかなか頑張っていますわ」
宗像は手渡されたカラーグラビアの雑誌をパラパラと捲った。なかなか意欲的な情報誌である。
「そもそもポルトガルの国名の語源がこのポルトですし、スペインの中のバルセロナのように独自の気位を持っていて……。そう、独立都市のようにでしょうか」
「私もそう思いましたの。首都リスボンから三百キロも離れていますし、独自性を打ち出すには適した環境かもしれませんね」
「天気も良さそうですし、昨日のようなことがないように今日は車を一日押さえておきました。さあ出発しましょう」
宗像はエリザベスをエスコートし、入り口の近くで待っていたガイド兼通訳兼運転手のアンホドロ氏を紹介した。