弐─嘉靖十三年、張(チャン)皇后廃され、翌十四年、曹洛瑩(ツァオルオイン)後宮に入るの事
(3)
三年前の、あどけなさを残したおもかげは、もうすっかり大人びて、別人のように、華やかになっていた。
あのときは、髪も梳(くしけず)られず、ぼろをまとっているだけだったが、今日は、きちんと髪をととのえ、白い衫子(さんし)の上に、うす桃いろのあでやかな袿(うちかけ)、娘らしい衣裳に、身をつつんでいた。
思いもよらぬ再会に、なんと言ってよいかわからず、私はただ、棒のように突っ立っていた。
「いま、洛瑩(ルオイン)殿に、この吉祥天の来歴を、語っていたのだ」
曇明(タンミン)師が、なにやら耳打ちした。住職はうなずき、
「少しばかり、席をはずさせていただき申す。二人には、つもる話もあるであろう。ゆるりとお過ごしくだされよ。ああ、お嬢さん、さっきの話のつづきは、この叙達(シュター)が、おはなし申すから、聞いておかれるがよい」
と言って、曇明(タンミン)師と一緒に、宿坊に姿を消した。
私たちは、二人きりになってしまった。
「あー……」
何か言わなければというときにかぎって、言葉が出て来ない。私は、まぬけな音を発した。
「やっと、お会いできましたね」
にこっとわらった目が、うるんでいる。
「あのとき、直接、お目にかかって、いとま乞いをすべきでありました。ここのお坊様がたや、お世話になった尼寺の住職さまにも相談して、北京をあとにいたしましたが、叙達(シュター)さまの承諾も得ず、かってに両親のもとへ帰りましたこと、ほんとうに、申しわけありませんでした」
曹洛瑩(ツァオルオイン)は、ふかぶかと頭を下げた。
「なにも、そんな……ちゃんと手紙も頂戴したことだし、わしも、そなたが、故郷に帰って、両親を安心させてやることが、いちばんだと思ってましたから……そんなことを気になさらんでも」
ふっと顔をあげて、大きな目で、まっすぐにこちらを見る。
「父に、一部始終を話しましたら『ぜひ、その方に会って、お礼がしたい』と言っておりました。いずれ、父が、叙達(シュター)さまのもとへ、参上いたしましょう」
「いや、そんな……」
「三年前、厳(イエン)家でおどったあとも、礼部尚書(れいぶしょうしょ)、夏言(シァユエン)さまのもとを訪れることになっておりました。でも、結局、夏言(シァユエン)さまには、お招きいただいたにもかかわらず、ご覧いただくことが、できずじまいになってしまったのです。
こうして、ふたたび北京にまいりましたのは、そのときのお約束を、果たすためでございます。でも、なにより、いちばんに、叙達(シュター)さまにお会いして、ちゃんと、ご挨拶申し上げたかったのです」
「わしは、そなたが、ぶじに帰ったときいただけで、うれしかった」
ながい睫毛が、風にふるふると揺れている。
「叙達(シュター)さまのおかげです。ほんとうに、お会いできてよかった……み佛さまが、会わせてくださったのですね」
「まことに……」
言葉がつづかない。しばし沈黙がながれると、曹洛瑩(ツァオルオイン)が、話題をかえた。