第一章
いわゆるスリーBというものがある。バンドマン、バーテンダー、美容師。この職業の男とは付き合っちゃイケナイという説だ。何故なら女タラシだから。何故女タラシなのか、それは女の方から寄って来るからだ。
では何故女はイケナイ男と承知で寄って来るのか。
それは女も、そういう男と遊んでみたいと思っているからだ。
奨学金という名の借金を抱えた藤田暁は、よくいる若者の1人にすぎず、新卒で就職した会社をわずか4ヶ月で辞めてしまっていた。短い会社員生活は、今思えばもう少し上手くやりようがあったかもしれないが、あの時はとにかく毎日辛くて仕方なかった。
あの生活が何年も続くなんて耐えられなかったのだ。
しかしその後の転職活動は思ったより上手く行かず、正直それもショックだった。学生時代のバイトの面接も就活の内定も、順調にとれていたものだからもっと簡単に行くと思っていた。考えが甘かったのだろう。
だがまあ、どれも自分のしたことだ、愚痴るわけにも行かないし後悔したところで何にもなりはしない。
とりあえずバイトとしてウェイターを始めた。ホール業なら大学時代にもやっていたし、少しでも稼ぐ為にバーに替えた。そこでカクテルの作り方を教えて貰っていたのだ。
教えてくれているのはこの店のマスター、50絡みの優しい男だった。ハスキーボイスで落ち着いており、大人の魅力を備えていると言えた。
「暁くん、マティーニ頂戴」
「いらっしゃいませ瞳さん、ただ今」
常連のアラサーキャリアウーマンがやって来た。女の身でありながら中小企業で課長を務める彼女は、いつも1人でこのバーに来ては、たまにストレス発散に暁を誘う。しかし今日は連れがいる。しかも男だ。
スーツをピシッと着た若々しいビジネスマン。部下なのか、いい仲というわけではなさそうだけど、気に入っているようだ。それとも見せつけたいのか? 残念ながら、そんなの関係ないし、何とも思わない。身体の関係があろうとなかろうと、ただの客だ。
「マティーニお待たせしました」