【前回の記事を読む】「暁君のイメージがトカゲなのよね」とバーのオーナーが笑うと、一度だけ寝たことがある人妻が意味ありげなことを言いだし…

第三章

金曜日。また雨か……。暁が氷を割っていると、店の扉が開いた。

「いらっしゃいませ」

いつぞやの女がおずおずと入って来た。

「科子さん、でしたね?」

「嬉しい、覚えててくれてましたか?」

「勿論。どうぞ座って下さい。あの日はちゃんと帰れましたか?」

「ええ、なんとか……。色々愚痴っちゃってごめんなさい、あの時は疲れてたから。思い出したら申し訳なくって……。えーと、今日はゴールデンアップルを……」

「申し訳なくなんかないですよ、科子さん、帰りに元気出たって言ってくれたでしょ。僕のお酒飲んで、話して元気になってまた仕事頑張れるなら、それがバーテンにとって嬉しいことなんですから。さ、どうぞ」

科子ははにかみながら小さなグラスを傾けた。

「美味しい……カクテルって、キレイだし美味しいし、いい気分にしてくれるし、素敵なものなんですね」

潤んだ瞳には暁が映っている。科子は努めて明るく話し出した。

おかげで少しは先輩と上手くやっていけそうだとか、最近料理に挑戦してるとか。きっと暁と話したくて話題を考えてきたのだろうと、その様子からうかがえた。

また俺を気に入った女が増えたか……。

しかしこの女には他の女にはない新鮮な素人さがあり、気分が良かった。

暁は優しく、あくまでビジネスライクに接するよう心がけた。

次の日の土曜日も科子はやって来た。

「今日は仕事休みじゃないの?」

「ちょっとだけ用あって……ついでに」

言葉少なに科子はカウンターに座った。俯き加減に、照れくさそうに……暁に会いに来たのは明白だった。

マジになられそうだ……まずいな。こないだ忠告されたばかりだってのに……。

「なんか、初めての日が雨だったせいか、雨になるとここに来たくなっちゃって……」

確かに今日も小雨が降っている。

任せると言うのでダージリンクーラーを作った。

「弱いから、1杯飲んだら帰って休んだら?」

「……何故追い返すんですか? 空いてるのに」