「いや、追い返すんじゃなくて、休みなんだから家でゆっくりすればってこと。雨だし、風邪ひかないうちに……」
「……暁さんも飲んで」
「じゃあ1杯貰おうかな」
暁はスカーレットオハラを自分に作った。シェイカーを振り、グラスに酒を流し込む一連の仕草を、科子はじっと見つめていた。
「キレイね」
「暁みたいな色でしょ? 強く生きろってメッセージが込められているカクテルだと思うんだよね」
暁自身、自分の名前を結構気に入っていた。そしてこのカクテルはピッタリだ、と常々思っていたのだ。
「確か今日を精一杯生きろ、だったかな。カクテル言葉は」
マスターが横から教えてくれた。
「あ、そうなんですか? やっぱりそんな感じなんですね」
科子が言った。
「『風と共に去りぬ』……そうですね。私にもそれを……」
その時、3人の男性客が入って来たので、暁は素早くカウンターを離れ、テーブル席に案内してそっちの接客に移行した。マスターが科子と話し始めた。
やれやれ……。科子から離れてほっとした。弱ってるところに優しくされてふらつくのは分かるが、こちとらそういう商売なんだから……。もっと世慣れたタイプならともかく、また酒の飲み方も身についていないんじゃウブすぎるってもんだ。
科子にはあまり構わないようにしなければ……。
次の週の半ば、キャリアウーマンの常連客に誘われた暁は、まあいいかと誘いに乗った。最近シテなかったし。
「久しぶりね暁くん。寂しかったわ」
ホテルで抱き合うと女はうそぶいた。
「そうですか? 瞳さん、こないだの男は?」
「ただの新しい部下よ。異動してきたんだけど、こいつが生意気で、でも仕事は出来るのよね。うかうかしてると課長のポストを奪われるかも。弱音でも聞き出してやろうと思ってこの前連れて来たんだけど、全然! 酒は強いし紳士的だし、弱点がないのよね。憎たらしい……」
「随分ご執心だね」
女は俯いてちょっと黙った。
次回更新は11月11日(水)、19時の予定です。
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