【前回の記事を読む】ぬくもりを求め、女性と一夜限りの関係を続ける24歳のバーテンダー暁。彼が年上女性に甘えるようになった過去の出来事とは…
第一章
だがそれは大した問題ではない。だって自分は母親のぬくもりを知らないのだし、ストレスを抱えながら現代社会に生きる女たちが求めるものと、今の自分が望むそれが合致しているのだから、ウィンウィンってやつだ。
あの会社員生活を思うと、女たちの欲求も無理もないと思えた。
かといって自分はホストでも風俗でもヒモでもない、誰でもいいわけでもない。物欲しそうな目で俺を誘う女たちを片っ端から喰っているわけでもない、女たちの機嫌を無理に取ろうとは思わない。
指名も同伴も関係ないただのバーテンだから。ちょっといい雰囲気になり、余裕があれば付き合ってやってもいい、その程度だった。特に泣き言をぐちゃぐちゃ言う女はごめんだし、暁から誘うこともなかった。
中にはちょっと太ったらフラれた、とか言う女もいたっけ。あの時は、最後まですることなく、添い寝で終わったんだった。朝方、あの女はさっぱりした顔をしていたな。そう、大体の女は何かを吹っ切ったように帰って行くものだった。
バーテンとしては客の愚痴は聞くし励ましもするが、ベッドでは喜んで甘やかしてくれる女がいい。小遣いやプレゼントをくれたがる女もいるが、暁は何も受け取らないようにしていた。奨学金は自力で返済できるし、何か貰ってしまうと後が面倒そうだし、いささかプライドもあったか。
それよりも俺に抱かれて悦んで、ひと時を楽しんで、俺を抱き締めて欲しかった。大抵の女たちは望み通り可愛がってくれた。だがそれだけだ。それでいい。これまで1人の女に執着することはなかった。
学生時代の彼女だけは……いや、俺を捨てた女のことなど、考えても仕方ない。
もうとっくに終わったことだ。
第二章
雨の金曜日、バーはいつもより空いていた。そこにやって来たトレンチコートを湿らせた小柄な女は、まだあどけない顔をしている。
「お客様、失礼ですが年齢確認できるものをお持ちですか?」
女は疲れた様子でマイナンバーカードを見せた。
「失礼しました、どうぞ」
女は暁の前のカウンター席に座った。マスターがコートをハンガーにかけた。
「いらっしゃいませ、初めてですね? 何にしますか?」
暁は愛想よく尋ねた。
「……甘くて弱いお酒を、任せます」
「かしこまりました」
年下のお客は少ない。暁は余裕を感じた。スプモーニを作ると、
「どうぞ」
出されたカクテルを、女はじっと眺めた。
「……キレイですね」
と呟いた。
「今日は残業でしたか?」と暁が尋ねると、女は顔を上げた。
「……ええ、まだ仕事に慣れてないのに色々押し付けられて……雨も降って来たし、傘もないしでつい入っちゃったけど……こういうお店初めてなんです」
じっと暁を見る目は、何かを期待しているようだ。