「そちらの美しい女性は?」
「親友のマイよ。こちらはヴォルフガング・A・リヒター」マイ、もじもじしながら、
「あの…その…素晴しかったです!」
「内気だね。でも音楽をやっていると、ズーズーしさも必要だよ。僕はうまくやっていると思う」
「さて、ちまたではアナスタシアが大盛りあがりだね。アナスタシアのことだけど、会ったことがあるよ。昔、ロシア皇帝の御前でピアノを弾いたことがあったんだ。弾き終わって歩いたところ、すべって転んだ。そうしたらアナスタシアが僕を抱きおこしてくれた。僕はすぐに〝結婚して〟と言ったよ。紳士的にね。写真もあるよ。見る?」
写真を見せる。その中にエリカの知った顔があった。
「何? 知っている人?」
エリカは指さす。
「この人は誰?」
「ああ道化だよ。道化師。みんなを笑わせる。ピエールっていうんだ。ブカブカのお腹で腹踊りも披露してたよ。僕は笑わなかったけどね」
「ファベルジェもいるわ」
「ああ金細工師。僕も嗅ぎたばこ入れをもらったよ。見る?」
美しい金細工。
「エッグ! エッグはもらわなかった?」
「皇帝がエッグをあげるのは家族だけさ。でも、この嗅ぎたばこ入れも素敵だと思わない?」
それからもヴォルフガングの話は続いたが、エリカはうわの空だった。
「僕は、あなたの地獄新聞読んだよ」
エリカは、はっと我にかえる。
「面白いね」
「じゃあ、プリマ・ドンナに忠告した方がいいよ。最近パトロンからエッグをプレゼントされたそうだから」
「なんですって!」
プリマ・ドンナ、絶賛を受けている。エリカが近づいて、
「マリア・アンナさん」「まあお嬢様。どうでした、私(わたくし)」
「素晴らしかったです」
「よかった。ウフフ……」