【前回の記事を読む】母親に売られ、屋敷に閉じ込められた少女。男に鞭で教育された末、ロシア革命後、その男にも売られた。その先で受けた次の教育とは…

第一部

ある日私は、よりアナスタシアであるように、やけどの跡をつけることになりました。真っ赤に焼いた鉄の棒が、私の肌に触れた瞬間、ジルが私を助けてくれました。「走れ走れ走れ!」ジルのその言葉にうながされ、私は走って逃げました。そして私は――。

これが全て、これが私の全てなのです」

「マイ、悲しそうなマイ」

エリカはマイを抱きしめた。マイは不思議な感覚を覚えた。

人は心を凍らせなくても誰かに抱きしめられるだけで心の動揺をおさえる事ができるのか。マイは、いつもつらいことがあると、心を凍らせる。昔、水が氷になるのを見て不思議と心惹かれた。

だから人から嫌なことを強要されると、マイは水が氷になるのをイメージして心を凍らせる。そうすれば何だって耐えられる。今までそうして生きて来た。

しかし、ジルと再会し、紳士を恐れつつも惹きつけられる。彼を愛するように教育されてきたから――。

エリカによって自我が芽ばえてきたはずなのに、紳士と再会した時、マイは身動きがとれなかった。彼の女に戻ってしまった。しかし、エリカの優しさでマイは生きかえった。

「ごめんなさいマイ。話しててつらくなかった?」

「人形のように操られていた私が、自分の生きる意味を見つけることができたのは、エリカ、あなたのおかげです。私もアナスタシア事件を見とどけたい」

エリカは決然と言い放った。

「悪夢はまだ終わっていないのね。アナスタシア計画は進行中。暴いてあげるわ、あなたのために」

次の日エリカは、

「マイ。いいかしら? すごい事がおきるのよ。少年天才音楽家ヴォルフガング・A・リヒターと、プリマ・ドンナのアンナ・マリアがうちのサロンに来るのよ。ハナを誘っていらっしゃいよ」

サロンにて――。

まずヴォルフガングがピアノで魅了して、彼の伴奏でプリマ・ドンナがアリアを絶叫する。あまりの美しさでみんな拍手喝采。

「ヴォルフガング!」

「エリカ!」

「あいかわらずね。天才くん!」

「あいかわらず大盛況だよ、マドモアゼル」

ふと、ヴォルフガングが、