【前回記事を読む】亡くなる直前、荒れていた愛猫が正気に戻った。私の誕生日を命日にしないように、数日間生き延びてくれたと思うと……
悲しみの底で見つけたもの~猫さんが生きた八十九日間の記録
五月十三日(火)
私には、これも猫さんが起こした奇跡の様に思えてしまう。これだけは、全くありがたくない奇跡だが。保険限度額が一杯にならないうちに猫さんは逝ってしまった。これは猫さんの気遣いに思えて仕方がない。私にお金を遣わせないようにという配慮だろう。
猫さんはきっと知らなかったのだろう。私が猫さんの治療に備えてたっぷりと『実弾』を用意していた事を。保険の支払いが止まっても、幾らでも資金を投入するつもりでいた。だが、彼女の病魔は医療費でどうにかできる類のものではなかった。どんな高価な検査もどんな治療も、猫さんに良い結果を生むのなら、迷うことなくお願いできた。
結局、私の自己負担額は合計二十五万余り。猫が一頭買えそうな額だが、あの猫さんだけは二度と買う事はできない。世界中どこを探しても、彼女と同じ猫は買う事も拾う事も作る事もできないのだ。
医療費なら幾らでも出すから、もっともっと長生きして欲しかった。
五月十五日(木)
注文していた猫さんのメモリアルプレートが届いた。これは、位牌代わりに作ってもらったもので、クリスタル製で小さなサイズだが手に乗せるとずっしりと重みがある。猫さんの魂の重みだ。プレートには猫さんの名前、メッセージ、虹の橋を渡った日付が描かれていて、中央には猫さんの遺影がある。周囲は花の飾りがついている。
どの遺影にしようか迷ったが、一二歳で一番太っていた頃の写真を採用した。天国できっと「こんなポッチャリの写真なんか使わないで!」と怒っているかもしれないが、やはり元気な時の写真が一番良いと思う。