「まあ、そうですね。でも、衣類の繊維の方は見落とせないかもしれませんよ」

「確かにな」中岡も頷いた。

「鑑識課と科捜研の人たちが被害者の部屋にあった衣類を一つ残らず回収して一致するものを探してたけど、結局は出てこなかった。てことは、この出所不明の衣類の繊維は、被害者と接触のあった人物が着ていたものの可能性があるわけだ。だけど――」

中岡は深くため息をついた。「容疑者が絞れ込めないんじゃどうしようもない」

「でも、いつかは物証になるかもしれません」

「まあな」中岡は無表情のまま答えた。そして空になった紙コップを握り潰すと、数メートル先にある部屋の隅に置かれたゴミ箱にそれを投げた。

丸められた紙コップは美しい放物線を描いて、円筒型のゴミ箱のほぼ円の中心に吸い込まれるようにして入っていった。

「ナイシュッ」沖田が言った。

この日、中岡と沖田は上司への連絡のために、大阪府警察本部に行かなければならなかった。彼らの本来の勤務地だ。二人が大阪府警察本部の建物を出たのは午後八時を少し過ぎた頃だった。三月になり、夜になっても暖かいと感じる日が増えてきている。時折吹く冷たい夜風さえも、心地いいと感じられる夜だった。

「沖田、お前今日は夕飯はどうすんの」

「帰りにスーパーで弁当でも買って帰ります」沖田は腕時計を見た。「この時間だと、値引きされてて半額になってるかもしれない」

「そうか。俺は肉が食べたいな。居酒屋でも行ってくるかな」中岡は夜風を顔で感じながら独り言のように呟いた。

「え?」沖田は中岡の顔を見た。「奥さん、夕食作って待ってるんじゃないですか」

「こんな時間まではさすがに待ってないよ」中岡は笑った。「そりゃもちろん、作ってくれてはいるだろうけど、息子と一緒に先に食べてるよ」

「まあ、確かにそれもそうですね。じゃあ、僕も中岡さんと一緒に居酒屋に行こうかな」

「お、来るか」

「ええ、行きましょう」

沖田は、安く食べられるチェーン店の、焼き鳥を専門にしている居酒屋の名前を挙げた。中岡も最初からそこに行くつもりだった。二人は商店街の方に歩き出した。

 

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