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冷え込んだ十月の中旬、あさだプロップ不動産に小学校の運動会のポルカが聞こえてくる午後の遅い時間だった。留守電に由那のメッセージが入っていた。

〈緑さん亡くなった〉

麻田はふわりと落下する感覚に襲われた。「入院」と聞いたとき、麻田はまさか死ぬなんて思わなかった。

「ちょっと外の空気吸ってきます」

麻田は直美さんに告げ、オフィスを出た。

車の運転席に座り、駐車場の先の派手な看板を見つめる。動かないまま一分が経った。麻田はやっとキーを回し、エンジンを始動した。

車は天現寺から首都高速に入り、流れのままに進む。レインボーブリッジの緩やかな坂を登ると、秋の白い太陽に晒(さら)された東京湾岸のビル群が白けたシルバーに光っていた。

新木場で降り、ほとんど車のない広い道を進むと、東京ゲートブリッジが見えてきた。優美な吊り橋のレインボーブリッジとは真逆で、橋の両端を上下から挟む不等辺四角形の鉄骨構造は橋を挟んでにらみ合う肉食恐竜のようだ。

麻田はゲートブリッジの手前で側道に折れ、海浜公園に車を停めた。ブリッジのほうへ歩くと行き止まりの柵の先は海だ。

釣り人が数組いた。麻田は柵に寄りかかったまま、ブリッジを眺めた。

突然、麻田のそばにいた年配の釣り人の竿が大きくしなり、ドラグがジリジリと鳴った。ヒットした大物が暴れ、リールから釣り糸を引き出しているのだ。釣り人はドラグを締め、しばらく魚が動くに任せた後、少しずつ糸を巻き取った。

上がってきたのは、六十センチはありそうな大きなシーバスだった。釣り人は魚の口に親指をかけて持ち上げ、麻田に向けてニヤッと笑った。

「大きいですね」麻田も笑顔で言った。

釣り人は魚をそっとリリースし、

「食べられないからね。大きいけどね」言い訳のように言った。

シーバスの和名はスズキで、フレンチやイタリアンの名店でも出される魚だ。だが、同じシーバスでも採れる場所でまったく違う。名店が出すものは外房や神奈川の先のきれいな海で採れたもので、麻田の目の前に広がる茶色い海とは違う。

……なんでまた、ここにいるのかな。

きれいな水にしか住めないイサキのような魚もいる。シーバスの体格ならいくらでもきれいな海に行けるのに、わざわざこんなところに住んでいる。

……まあ、人間も同じか。

麻田の視線の先のゲートブリッジに夕陽が反射した。

鉄骨の恐竜から束の間の生気が弱く空に放射している。