【前回の記事を読む】尊敬していた女性は、実は夫を刺し殺して服役していた。告白を聞いて気絶した私。それでも彼女の秘書を辞めようとは思わず……
オランダの壺
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賃貸物件を扱う不動産屋の仕事の大半は地味だ。内見や契約などの客から見える部分は三割もない。
まずは「物確」。不動産のポータルサイトに載せた情報はすぐに古くなる。同じ物件はほかの不動産屋も載せる。ほかで成約すればこちらの掲載は取り下げないといけない。麻田は頻繁に管理会社に問い合わせ、物件の空き確認、「物確」をする。
撮影。まだ写真がない新着物件や、リフォームが終わった物件へ走り、広角レンズで撮影する。写真にはセンスもいる。一軒に一時間かかることもある。真夏は地獄だ。
条件確認。「小型犬一匹までOK」という物件なら「ネコもOK」と決めつける客もいる。客は「ネコのほうが静か」と主張するが、問題は音ではない。大家はネコの爪とぎとおしっこの匂いを嫌うのだ。ミーアキャットのときは、ちょっと揉めたが……。
「社長、ごほうび」
麻田のデスクに直美さんがモンブランとアイスコーヒーを置いた。
「おッ、うまそう……って、何のごほうびですか」
「九月の売上よ。いくらになったとお思い?」
「忙しかったからなぁ。三百後半ですか」
直美さんは指でいちいち数字を作りながら、
「四百、二十、万円。新記録」
たしかに、よく働いた。意地になって働いたのもある。
……由那に会いたいなぁ。
新記録を一緒に祝いたいところだ。だが、ノコノコ会いに行ったら赤道まで許した格好になりそうでダメだ。麻田はまだしばらく我慢しようと決めた。